朗読の鑑賞 「祝婚歌」 吉野 弘 二人が睦かじくいるためには 愚かでいるほうがいい 立派すぎないほうがいい 立派すぎることは 長持ちしないことだと気付いているほうがいい 完璧を目指さないほうがいい 完璧なんて不自然なことだと うそぶいているほうがいい 二人のうちどちらかが ふざけているほうがいい ずっこけている方がいい 互いに非難することがあっても 非難できる資格が自分にあったかどうか あとで 疑わしくなるほうがいい 正しいことを言う時は 相手を傷付けやすいことだと 気付いているほうがいい 立派でありたいとか 正しくありたいとかいう 無理な緊張には色目を使わず ゆったり 豊かに 光を浴びているほうがいい 健康で 風邪に吹かれながら 生きていることの懐かしさに ふと 胸が熱くなる そんな日があってもいい そして なぜ胸が熱くなるのか 黙っていても 二人が分かるのであってほしい 「自分の感受性くらい」 茨城のり子 ぱさぱさに乾いていく心を ひとのせいにするな みずから水やりを怠っておいて 気難しくなってきたのを 友人のせいにはするな しなやかさをうしなったのはどちらなのか いらだつのを 近親のせいにするな 何もかも下手だったのはわたくし 初心消えかかるのを 暮らしのせいにするな そもそもが ひ弱な志にすぎなかった だめなことの一切を 時代のせいにするな 僅かに光る尊厳の放棄 自分の感受性くらい 自分で守れ ばか者よ 本文来源:https://www.wddqw.com/doc/64696e19227916888486d7b5.html