イトーヨーカ堂の中国戦略 李東浩(和歌山大学) 流通・小売業の分野では、中国ほど外資が参入している国は他には例を見ない。本土の有力企業の健闘をも合わせて、熾烈な中国市場で勝ち残るのは優れた企業戦略が不可欠な要件の一つになる。 日本トップのGMS企業としてのイトーヨーカ堂は、ちょうど10年前に中国成都で一号店の開店をきっかけに、海外進出の初めての歩みを踏み出した。 漸進的な海外展開戦略に基づき、2003年までの8年間に店舗立地を成都と北京の2都市に絞って総計5店舗のみを展開していた。しかしその後、海外進出戦略を一転して積極的な姿勢を取り、2007年末に最低12店舗のスピードアップ出店狙いを図っている。 中国市場の爆発的な成長経緯と発展性及び、日本国内小売業の競争激化がイトーヨーカ堂の海外戦略転換の客観的な要因だと考えられるが、この組織活動を支える根本的な柱は長年に貫いて徹底された「単品管理」、「ドミナント政策」と「業務改革」の帰結である。これはイトーヨーカ堂の戦略転換の武器でもある。 トヨタ流の原点でもいわれる「カイゼン」システムに由来し、イトーヨーカ堂の「業務改革(業革)」システムは80年代の業績低迷期に導入され、20年以上の時間を経て、流通業界によく知られている。これはイトーヨーカ堂の企業体質を絶えず改善しつつあるのである。 そして、①集中的に特定都市・地域のみに出店する「ドミナント政策」、②徹底した価値と品質の重視した経営、③自社ブランドの育成の経営戦略は自社のCIと差別化競争優位を構築している。 単品管理に基づき、「無駄な作業」をゼロにし、「付帯作業」を減らして、意味のある「正味の作業」を多くして商品の細分化優位を確保している。 イトーヨーカ堂の中国戦略は国際化の一部である。国際化は、店舗立地の国際化、商品調達の国際化、資本の国際化がある(川端2000)。 トヨタの「カスタマーイン」(顧客からの注文生産)と近い形で、イトーヨーカ堂は「ディマンドチェーンマネジメント」と提唱してきた(週刊東洋経済2003.2.22)。 イトーヨーカ堂の経営原点ともいえる「業革」はトヨタの現地・現物主義と同じように、店舗の現場情報に基づき経営の判断と調整を行われる。 小売業の中国への急速的な進出する理由のひとつは中国現地支店の粗利益率が低くても人件費などの経費率も低いので、営業利益率が高く、資本の回収期が短いことである。日本での回収期は7~8年と対照的に中国なら3年程度である(週刊東洋経済2004.4.10)。これはイトーヨーカ堂に対して中国市場の最大の魅力であるといえよう。戦略転換の段階 1.消極的な進出政策段階: 90年代前半までのイトーヨーカ堂は、経営多角化に慎重な政策を取る会社であった。海外進出どころか、日本国内市場でも選定地域だけに集中多数の店舗を出店する「ドミナント戦略」を取っていた(矢作2005)。 2.緩やかな海外進出開始:中国成都一号店の開業 中国市場と関連強く伊藤忠商事のおかげで、イトーヨーカ堂は97年11月に海外の一号店を中国西部の商業都市である成都市に開店した。この契機は①収益力の回復こと、②全社の国際化戦略が立て直されたこと、③国内市場の成長性の鈍化により、海外市場の打開が不可欠になること、④蓄積された中国での店舗運営ノウハウと育成した人材、地域社会・政府との仲良く関係の深化により、加速出店が可能になること、などの要因が指摘できる。 3.積極的な進出政策への戦略転換 2005年からイトーヨーカ堂の中国進出活動は加速していた。その背景は①日本国内小売業の更なる競争激化、②セブン&アイ・ホールディングスの設立により全グループの経営統合・戦略細分・資金配分がいっそう明らかになること、③欧米系の中国への急進展により中国小売市場の白熱化になり国際化戦略の抜本的な調整に迫られること、などの要因が指摘できる。 当面、成都市の5店舗と北京市の7店舗、計12店舗のシステムが2007年末に開設することを計画している。 加速する進出の対面する課題 ①商品調達、配送システムの挑戦 ②適格な管理幹部と営業員の育成 ③来客数こそが勝負するので、中高所得顧客層の拡大と一般顧客層の確保 ④価格ではなく、品質とサービス競争戦略の定着。 ものあまりの時代における小売業は一業態、安売りだけでは顧客のニーズを満足できない。総合スーパーであるイトーヨーカ堂は今中国で、2005年9月に新しく成立されたセブン&アイ・ホールディングスの傘下対等子会社であるセブン・イレブンを代表するコンビニンストア、ヨークベニマルを代表する食品スーパーを補完的に「新総合生活産業」小売グループ企業として着実に中国戦略を推進している。 本文来源:https://www.wddqw.com/doc/12f6a42a647d27284b735185.html