朝、小雨が降った。 もともとが水で出来ている海が濡れるというのも妙なことだが、無数のさざ波を立てた明るい水面が雨で濡れていくように確かに見えた。 遥か彼方の緑の陸地が薄ら白い空気の中にかすんで見えた。 その方向から小さな木の小舟がいっちょく線に近づいて来ると、それはわたしたちの長旅を支えてきた船の大きな船体の下方でピタリと動きを止めた。 モーターを取り付けた小船の上には、真黄色の雨ガッパをかぶった人物が仁王立ちになって、甲板のへりにいるわたしたちに向かって何ごとかを叫ぶんだが、その声がわたしたちの耳までは届かなかった。 目が覚めるように鮮やかな黄色い雨ガッパの中に、真っ黒い体をした人物がいた。いや、薄く雨に濡れたその裸は、黒というよりは沈んだ紫色だった。 その人物の外形はすっきりとした輪郭を空中に描いていたが、その中に見えるはずの人体の細部は、た 「黒いなあ!」と、わたしは思うわず声を出した。生まれて初めて見たアフリカの人間だった。その男は再び、小雨でけぶる海上を小船の上に立ちったままの姿勢で去って行った。そして午後になると、今度はやや大きなハシケが迎えに来て、わたしたちは遂にアフリカ大陸に上陸することになった。 本文来源:https://www.wddqw.com/doc/382f1829cfc789eb172dc836.html