初春(しょしゅん) 一雨(ひとあめ)・ごとに(毎に)暖かさを増して行く二月の下旬から三月のはじめへかけて桜、梅の蕾(つぼみ)も次第に膨らみ(ふくらむ)、北向(北向き)の雪も漸く溶け、灰色な地には黄色を増してきた。楽しい春雨の降った後では、湿った(しめる)梅の枝が新しい赤みを帯び(おびる)て見えた。長い間雪の下になっていた草屋根の青苔も急に生き返る。心地(ここち)の好い風が吹いてくる。青空の色も次第に濃くなる。あの羊の群れでも見るような、さまざまの形した白い黄ばんだ雲は、あだかも春の先駆をするように、微かな風に送られる。 私は、春らしい光を含んだ西南の空に、この雲を注意して望んだことがある。ポットくもの形が現れたかと思うと、それが次第に大きく、長く、明らかに見えて南へ動くに随って消えて行く。すると復、第二の雲の形が同一の位置に現れる。そして同じように展開する。柔らかな乳清(にゅうせい)の色の空に、少し灰色の影を帯びた白い雲が遠く浮かんだのは美しい。 島崎 藤村 「千曲川のスケッチ」 初春 一场春雨一阵暖,自二月下旬到三月初,樱花、梅花的花蕾渐渐饱满起来。背阴处的雪也终于开始融化,灰色的大地上凭添了些许黄色。令人欣喜的春雨的过后,湿漉漉的梅花枝条上已露出了新红。在雪下压了许久的草檐上的青苔也在倏忽之间恢复了生机。软风吹来,心旷神怡。蓝天的颜色也越来越深了。那羊群似的各式各样的,黄白色的云朵,宛如春天的先驱,乘着微微的轻风,纷纷飘来。 我曾专心地观望过饱含春光的西南天空中的那些云朵。往往它“啪”地一下刚刚显露身影,就不断地变大、伸长、清晰可见,在向南飘移的行程中渐次消陨。然后,第二朵云又在同一位置上形成,同样地生长开来。那些略带些灰影的白云远远地漂浮在柔和的淡蓝色的天空中,美丽异常。 本文来源:https://www.wddqw.com/doc/e69fb83fbdd126fff705cc1755270722192e597c.html